宮崎の食人

”一心鮨 光洋 総料理、木宮一成

プロフィール
1980年、一心鮨の次男坊として生まれる。2000年に一心鮨の厨房に入り、2011年に若干30歳の若さで一心鮨光洋の総料理長に就任。独自の着眼で宮崎の食材を中心に料理を仕立てる。同時に宮崎県内各地を歩き、食の楽しみを提案したいと、ビオワインと日本料理のペアリングを始め、日本全国にファンが急増。
2013年にFOODIE TOP 100のJAPAN TOP100に選ばれる。
食材への想い
宮崎は食材の豊富な土地です。しかし、昨今「旬」とは何ぞやと感じる事が多々あります。料理人として喜ばれればそれで良いのかもしれませんが、「旬を感じていただけるお料理をお客様にお届けできたらどれだけ気持ちやお腹に幸福をもたらすことができるだろう」。そんな想いを胸に“旬”の素材選びを入念に行っています。
宮崎の食材・旬とは
まず、山幸の最大の特徴は人の手があまり入らず、ミネラル分を多く含む旨味の濃い食材であること。この秀逸な旨味を知らずして本当の宮崎の食材は語る事が出来ません。その旨味に溢れている産地、宮崎県諸塚村。春には藤の花や柿の葉の新芽、ウルイやガンゾウ等の苦味の中にも甘味が詰まっている山菜達が顔を出し、夏はとびきり鮮度の良い川魚が取れます。標高約400mの川魚は透明感のある香りが楽しめます。そして鹿は、うっすらと脂が入り弾力のある肉質で、焼いた時に爽やかな山の香りが食欲をかき立てます。 秋はいまだに残る食虫文化(蜂の子など)が豊富に楽しめ、キノコの官能的なとろみに魅了されます。冬はイノシシやキジ、ムジナなどの生命を感じさせられる力強い旨味…。
こういう食材こそが「旬」なのではないだろうかと思います。しかし、残念な事に常に提供することができないのも欠点ではあります。
私たちにできる事
私は何年も県外で修行したわけではなくいわば根っからの宮崎料理人。宮崎のいい所は恥ずかしながら他県の方よりも知らない事もあるくらいです。きっとそういう人も少なくは無いと思います。これからの私たちの仕事は『食を通してまだ知らない宮崎の良さを伝える』という事かもしれません。
このコラムで興味を持たれた方々、ぜひ諸塚村に足を運んでみてはいかがでしょうか。きっと新しい発見があるはずです。
宮崎の食材 海のチカラ 出会いが変えた価値観
光洋を立ち上げて11年。今まで全国から様々な魚を仕入れ関東や福岡など有名店に追いつける様、日々努力してきました。それは、常に食の全国誌で取り上げられる食材と日々向き合う事でもあり、宮崎でもブランド魚を食べられるというお客様への“おもてなし”だと考えていたのです。
数年前、いつもの様に食材を探しに県外へ足を運んだ際、同業者の方から「宮崎で獲れる魚は何が美味しいですか?」と訊かれ、その問いに全く答える事が出来ませんでした。この出来事が、海に恵まれている産地としての地元『宮崎』で産地と深く向き合うキッカケになったのではと感じます。
2013年5月、宮崎県川南町にある川南漁協さんとお取り引きさせていただく事になり、始めのうちは驚かされる事ばかりでした。「孫の代、その先の子ども達に魚を残してやらないと…」と彼らは、網での漁ではなく一本釣りでの漁にこだわり、沢山の魚を獲ろうとはしないのです。
さらに彼らは何十年と撒き餌をしない。その魚達は臭みもなく味に透明感があり、ピュアなミネラルを十分に感じられます。 そのお陰で全国の有名漁港と肩を並べるほどの良質な魚が地元から仕入れられる様になり、宮崎らしさを演出出来る様になりました。
食材と向き合う姿勢
同業者からの問いにすぐ返答できなかった過去の自分。料理人としての技術が足りていなかったのでしょう…。しかし今では川南漁協の皆さんのお陰で、全国や海外から来られるお客様に宮崎の魚で“おもてなし”が出来る事に喜びを感じています。
宮崎の食材と向き合うことは、「宮崎料理人」としての自問自答であり、更なる技術の向上ではないかとも感じています。
ひと手間が世界を変える
すべての魚に対してひと手間加えております。おろしただけの魚を、すぐにお鮨や料理にする事はありません。必ず、魚の状態や鮮度を見極め、的確な〆、漬け、熟成などの仕事をそれぞれの魚に合わせて施しております。
例えば、焼き物。今は(サワラ)を使わせていただいておりますが、3枚におろしてから、一皿の料理に仕上がるまでに約1週間かけて作り上げます。その鰆を焼くと、身は元の状態よりふっくらと、身と皮の間からじわじわと脂が落ち、その香りは素晴らしく、ジューシーな鰆に仕上がります。素晴らしい素材の魚に私達の“ひと手間”が加わることで、今までにない焼き魚料理へと変貌を遂げるのです。
これからの時期は鯛が美味しくなります。川南で受けた感動を私達の仕込みでお客樣にも味わっていただけたらと思っています。

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