「佐土原ナスは誰が食べてもおいしい、って味の違いが分かるナスなんだよ」と浜口さん。「甘くてそのまま生で食べても甘さが分かる」というのはよく耳にしますが、「一度料理人の人がハウスに来たときに、生のまま半分に折って全部食べたのには驚いた」と嬉しそうに話してくれました。
佐土原ナスの特徴は、まずその食味。スポンジよりもっときめ細やかで軽く、ふんわりしっとりとした果肉は他のどのナスにもないものです。果肉にアクがほとんどなく変色しにくいため、漬け物用にもよいと言われています。味の違いが最も分かるのは火を通したとき。トロっとした食感と際立つ甘みが、ナスを食べているのを忘れてしまうほどです。
また佐土原ナスは外見も特徴的。通常のナスの約1.5倍にもなるほど大きく、赤紫色で上品なつやに、思わず見とれてしまいました。花も大きくて驚きました。花びらもしっかりとした厚みがあり、風が吹いても動じません。とても美しい迫力のある花でした。
宮崎市大字芳士。みそぎ池のある市民の森公園や江田神社から車で数分の距離に、浜口さんのご自宅とハウスがあります。宮崎の海岸に沿って植えられている防潮林の松林からも近い距離です。サラサラの砂地で周りに山はなく、灼熱の太陽が朝から夕方まで照りつけます。浜口さんによると、真夏でも夕立が滅多にないとか。 「ナスのほうが人間より強い」「馬力があるナスだわ」「スタミナがすごい」等。取材中浜口さんが語る、佐土原ナスの生命力の強さを表す言葉の数々。「この時期、人間は昼までしかハウスにいられない。それでも佐土原ナスは元気にしている。ここの辺りで、しかもハウスで今の時期育つのは佐土原ナスくらいよ」。他の作物は暑さでやられてしまうといいます。取材した日の午後も、ハウスの温度計は37℃。 元々浜口さんはキュウリ農家です。佐土原ナスを栽培するようになったきっかけは、キュウリの後作として夏にハウスに植える作物をいろいろ試したときのこと。一番丈夫に育ったのが佐土原ナスだったから。これからも、パワフルな佐土原ナスの栽培を続けられるそうです。
佐土原ナスは宮崎伝統野菜。在来種のため、全部の株で毎年一定の品質を保つのは難しく、収量にもばらつきがあります。2000年の佐土原ナス復活と同時に佐土原ナス研究会が発足し、佐土原ナスは研究会メンバーの自家採種で続けています。それは安定した品質・収量を実現するためです。そして、消費者が少しでも手に取りやすい価格・安心して買える外見にするためです。
花が大きいもの、花の柱頭が周囲にあるおしべより飛び出ているもの、着果率のよいもの、実つきがよいもの、ナスの形がよいもの・・・等全体的なバランスをみて望ましい性質をもつ株の種を取り、その種で翌年栽培します。「以前と比べて実つきがよく、収量が上がってきていて、どんどん虫がつきにくくなっている。今年はスリップスによる被害も本当に少ない」、と自家採種による品種改良が進んでいることを実感されているようです。
今年も秋に佐土原ナス研究会メンバーで集まって、種取りを行う予定です。
佐土原ナス研究会は、栽培はもちろん、普及促進にも熱心に取り組んでます。「佐土原ナスを知ってもらうために、街市が始まってからずっと出品し続けているけど、まだ食べたことがない、というお客さんも多くて」と少し残念そう。毎回二名づつメンバーさんが当番で店頭にたち、今後も街市への出店は継続する予定。浜口さんは当番でない時も毎回顔を出しにいきます。
「今後は全国に佐土原ナスの知名度をあげ、生産農家を増やして販路拡大を目指したい」と浜口さん。「ボチボチ毎年出荷量が増えるようになってきた」という佐土原ナス。今期は7月〜9月まで、宮崎産野菜なども取り扱う居酒屋『宮崎県日南市 塚田農場』への期間中の納品が決まっており、これをきっかけに今後も全国へ佐土原ナスを広めたい、と語ってくださいました。
年々需要が高まる佐土原ナス。2012年は、品薄で二本で500円になった時期もありました。「生産者はいいかもしれないけど、それじゃ消費者の人が食べられないからね」。手軽に美味しい佐土原ナスを全国の人に食べてもらうため、10月まで休みなく働く日々が続きます。