人を笑顔にするみかんを山と育てる-長津和文・昭子

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長津 和文・長津 昭子
(ながつ かずふみ・ながつ あきこ)
『和文さんは脱サラして新規就農、今年で15年を迎える。昭子さんは元ホテルフロント勤務で、現在は自宅の一角を改装した『ひだまり』というお店を経営。温和で明るいお二人はまるでひだまりのよう。取材中も冗談を言ってはスタッフを笑わせてくださいました。和文さんが農業を頑張るのは「晩酌おいしく頂くため。」

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人を笑顔にするみかんを山と育てる-長津和文・昭子
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三紀層

大窪地区に共通するのは三紀層という水はけのよい土壌です。長雨の時も水が畑にたまることはありません。長津さんのみかん畑は山の斜面を切り開いたところにあります。初めて畑に案内してもらったとき、山の斜面に畑が広がっていることに驚きました。畑の一角にある駐車スペースの脇にはほぼ垂直に10m以上ある壁のような崖。その上にも下にも長津さんのみかん畑が広がっています。畑の中での移動も車です。また、その崖は茶色い岩石で、斜めに地層が走った岩山。落ちていた岩のかけらを手に取って軽く握ると、ざらっとした岩はボロボロっと手の上で崩れました。
「みかんは水はけのよいところでおいしいみかんが出来る。三紀層は水はけがよいからこの辺りはみかんの栽培に向いている」と長津さん。畑に撒きたいからと、わざわざこの三紀層を取りにくる農家さんもいるようです。
南側に裾を広げたようにある、長津さんのみかん畑。山の合間を緩やかにカーブするように広がるミカン畑は日当りもよく、気持ちよい風が流れていました。

日本一早い温州みかん

今回は、台風一過の青空の下での撮影となりました。雨台風(雨ばかりで横なぐりの風があまり強くない)だったために、みかんの落下の被害がほとんどなかったことを聞き、ほっとしました。この日は「日南1号(N系)」の収穫の真っ最中。風は少しばかり涼しくなっていてもまだまだ夏日の中、お手伝いの方も来ていて、10名近い人数で収穫に汗を流されていました。
温州みかんの極早生品種の「日南1号(にちなんいちごう)」は、日本一早く出荷される温州みかんです。宮崎県日南市で、温州みかん品種「興津早生(おきつわせ)」の枝変わりとして発見された品種で、酸味と甘味が両立した飽きの来ない味が特徴です。撮影の時は、日南1号のうちN系と呼ばれる日南1号の中でも早い品種の収穫日でした。

長津さんに「おいしい温州みかんは、平べったい扁平形でお尻のあたりが黄色く色づいてきたもの」、と教えてもらいました。みかんの食べ比べをさせてもらったのですが、確かな違いがありました。温州みかんは収穫して数日おくと、酸味が抜けて黄色の面積が広がります。黄色味が少し入ったくらいが適度な酸味で、甘さも引き立つことを実感しました。
就農したときは数種類だったみかん。今では8月のハウスみかんの出荷から始まり、日南1号、ポンカン、せとか、レモン、デコポン、など12品種の柑橘類を育て、約10ヶ月に渡り出荷されています。長津さんは「お客さんの喜ぶ声が聞きたいから」、とマルシェなどにも積極的に出店。お客さんから喜ばれるみかんを増やしたい、と意欲的です。長津さんの笑顔を見ながらお話を聞いてると、肩の力がふっとぬけてきました。

お勧めは「スペシャル」

長津さんのお勧めは11月前後に出荷される品種「スペシャル」。特徴は、味の濃さと糖度の高さ。「去年も人気でね、おいしいと喜んでもらえたんだよ。追加でほしいと言ってくれた人も何人もいた」。そのスペシャルの人気の高さと同時に、「おいしい」と人に喜んでもらえることに、みかん農家としての一番の喜びを感じている長津さんの思いが伝わってきました。
スペシャルの「濃いオレンジ色の皮と、房の中にぎゅっと詰まった果汁」は他のみかんにはないもので、栽培も他のみかん以上に手間ひまをかけます。豊産性が高く、背丈の低い木の割に実りがよく、糖度も高く、木が弱りやすいのです。

取材した9月初旬、小学生の背丈くらいの小さい木に、濃い緑色のこぶしサイズのミカンが10個以上実っていました。まだこれから実が大きくなります。
スペシャルは去年、日南市内にある直売所『こざえん』や『ひなこみち』で販売。今年も販売予定とのことで、今年の秋が楽しみです。 また、糖度が高くて痛みやすいスペシャルみかんは貯蔵をせずに直接出荷をします。関東など遠方へ発送する場合も「完熟切り(完熟してから収穫したもの)のを出荷するので、是非食べてもらいたい」と長津さん。そのおいしさは長津さんのお墨付きです。

絶対にみかん農家を継がない

ながつみかん園は、和文さんを中心に昭子さんと和文さんのご両親と4人で農園を営まれています。日南市内でサラリーマンをしていた和文さんが後を継いだのが15年目。ながつみかん園ブログでも書かれていますが、和文さんは「絶対にみかん農家を継ぐつもりはなかった」そうです。子どもの頃は農作業の手伝いから逃げようと「学校が休みの日は早い時間から友達の家に遊びにいって、絶対家にいない子どもだった」と笑いながら話してくれました。
しかしサラリーマン生活も長くなり、そろそろ何かで独立しようと思った頃にみかん園を廃業する話が持ち上がり、農業で独立しようと決断。昭子さんと一緒に実家に戻ってきました。農業経営もミカン栽培も全く初めてでしたが、「この時期にこの作業をする」という農作業の感覚が自然と身についていたこともあり、営農指導員や地元の先輩のアドバイスを受けながら学び、栽培品目を拡げ現在に至ります。
「みかんの値段は変動するし、収入の保証もない」。だけど対面販売したときにお客さんから言われた「あんたのところはおいしい」という言葉、それをまた聞けるのが楽しみで頑張れると話してくださいました。
現在対面販売の機会を増やしている長津さん。11月の油津堀川まつり(日南市)、cocokura marche(都城市)にも出店予定です。2013年春に開催された海幸山幸マルシェ(日南市)では「地モッティーフルーツジュース」を周辺のフルーツ農家さんとのコラボで開発販売。今後の展開も楽しみです。

ひだまり〜ながつみかん園にある昭子さんのお店〜

『香りとリラックス空間 ひだまり』は自宅の一部を改装した小さなお店。昭子さんはアロマセラピスト。お店では予約制で、アロマオイルを使ったボディケアが受けられます。昭子さんがオーガニックアロマオイルを始め、昭子さんセレクトのオリーブオイルやメープルシロップなどの販売も行っています。
「日常生活に自然の香りを取り入れてほしいから」と昭子さん。自然な香りのアロマで癒されて心も体も解きほぐされたい、と1時間〜1時間半かけて来店するお客さんも多いようです。

昭子さんのアドバイスは「慌ただしい生活をしていると呼吸も早くなり、自律神経が乱れる」から「深呼吸して香りを深く吸い込む」こと。また、シチュエーションや効能によって使うアロマオイルのアドバイスもしている昭子さん。お店ではアロマの量り売りもあります。
山あいの集落にあるこのお店の雰囲気はお客さんにも人気で「カフェをやってほしい」というリクエストも多いとか。県道沿いからほんの少し脇道に入ったところにあるので、旅の途中に立ち寄ってみるのもお勧めです。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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