次世代につなぐ自然栽培-川越俊作

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川越俊作(かわごえしゅんさく)
農薬や肥料などを畑に入れない自然栽培で野菜を育てる。 大学卒業後、製薬会社で6年間働き、Uターン。両親の跡を継いで就農。その後いろいろな農法を実践する中で、現在の農法に辿り着く。取り組みはじめて18年が経過し、地元で八重桜会という自然栽培グループも結成し次世代の育成も行う。
※野菜はナチュラルハーモニーをはじめ全国の自然食スーパーを中心に販売中

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次世代につなぐ自然栽培-川越俊作
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知ってほしい野菜のこと

川越さんのことは、畑訪問をはじめた二年半前から知っていました。訪問を熱望していた農家さんの一人でした。ただ川越さんの野菜は宮崎では販売されていないということもあり、なかなか接触する機会がなかったのですが、今回はご縁を頂き取材させて頂くことができました。
販売先が限られ、一般にはほとんど流通しない川越さんの野菜なので、食べる機会はないかもしれません。それでも、農家はもちろん消費者が川越さんの野菜を知ることで今後の生活に生かせることは多いと思います。

情報が溢れる今、誰が正しいかではなく何が正しいか、判断するのは消費者自身です。スーパーや直売所で買い物をするとき、値段以外で野菜を選ぶ情報はほとんど掲示されていません。畑と食卓が遠くなった今、店を選び、野菜を見て選び、自分の判断で買い物をしなければなりません。
今回の取材を通して、野菜本来の姿と、自然栽培が持続可能な農業だということを確信しました。これからもっと広がると思います。一人でも多くの人に野菜本来の姿を知ってもらい、食卓から人生に笑顔が増えるきっかけになればと願って止みません。

自然栽培とは?「自然」をどう解釈するか

そもそも、自然栽培とはどんな栽培でしょうか。川越さんの自然栽培は、種と苗以外は畑に持ち込まないで野菜を育てます。
自然栽培というと、草がたくさん生えている畑を想像していた私ですが、話を聞いてすぐに「自然」という言葉の曖昧さに気づかされました。はっとしました。草が生えている状態=当たり前な状態=自然な状態、と無意識のうちに思い込んでいたのです。
実際に川越さんの畑で草はほとんど生えません。それは野菜が育つ土づくりをしているからで(後述)、それが川越さんの畑では当たり前の(自然な)状態です。

川越さんがいう自然とは「例えば山。山は人の手で外から肥料や植物を持ち込まなくても成り立っている。自然に種が落ち、草木が枯れ落ち、次世代の木が育っていく。その山の中で循環している」。つまり畑の場合は、その畑の中だけで命のリレーが行われ続けること、その畑の中で循環することです。
「もちろん解釈は人はそれぞれで、自分はそれを否定はしない。昔はいろいろ言っていたけどね」と、遠くを見ながら、大きくないけどしっかり最後まで聞こえる声でした。

野菜が育ちやすい土

「土が見たいです。」お願いして連れていってもらったのは、川越さんお墨付きの畑。遠目からでも、畑の表土に大中小コロコロと団粒化した土がたくさん見えました。ワクワクして素手で掘りました。腕まくりしたシャツの袖が穴の中に入るまで掘り進めても、柔らかな触感は変わらず、同じように団粒化した土が両脇からこぼれてきました。雨上がりの畑でしたが、パンパンと両手をうつと土煙があがり、両手のしわにうっすらと跡を残して、土はきれいに落ちました。
畑に一歩足を踏み入れると、畑の土は丁度くるぶしのあたりまで一度ぐっと沈みながらも足を取られる事はなく、優しく受け止めて次への歩みを支えてくれました。この土が、川越さんのいう野菜が育ちやすい畑の土です。

「草と野菜は根本的に根っこの作りが違う。草の根が張りやすい土は固い土。野菜の根が張りやすい土は柔らかい団粒化した土」。「水はけがよく、水持ちがよい。それが野菜が根を張りやすくて、野菜が育ちやすい土です。この相反する2つの性質をもつのが、この団粒化した土です」。
実はここは実験圃場。実験といっても、「植える時期が遅いとやはりいい野菜は育たない」という仮説を証明するための畑。「研究者みたいですね」というと「俺が失敗してみせるから失敗せんでもいい」。そう笑ってみせた川越さん。結果を追い求める川越さんは、出来ない事も実証して見せてくれています。

おいしい野菜は左右対称、根っこも真っすぐに

「全然違う」。里芋畑に着いてびっくり。これまで見たどの里芋畑とも違う姿に、驚きました。収穫途中の畑に置かれたままの赤い収穫機、その横に並んで収穫を待つ里芋。どれも茎をしゃんと伸ばして、葉でしっかり雨水を受け止めて。二列に植えられた里芋たちは、向かい合って整列しているように見えました。
収穫時期になると茎が折れ曲がり、葉っぱがぼろぼろになっている里芋畑をよく見かけます。
「とっていいよ」と声をかけてもらい、里芋の茎を持って引っ張ると、里芋がついたまま崩れないで簡単に抜けました。土が本当に柔らかい。里芋からは真っ白で真っすぐに伸びた根っこ。自然栽培の野菜の茎や根っこは真っすぐに、葉脈は左右対称に、根の間隔は均等で、上からみるとまん丸になるといいます。

「なんでそうなるというか、結果的にね、そうなる」。それが川越さんの整列する里芋畑。植物本来のスピードで、植物本来の力で育った野菜は、綺麗な姿形をしていました。
川越さんの里芋、ニンジン、ショウガを頂きました。どれを食べても最初にパーンと弾けるような野菜の香りがして、それでいてしばらくたつと優しい甘さがのど元にあがってきて、後味はさっぱり。食感は均一で、すり下ろしたショウガはふわっふわになりました。体験学習で畑にきた子どもたちも「このニンジンなら食べられる」とどんなにニンジン嫌いな子でも食べられなかった子はいないそうです。本当の野菜の味を食べさせて教える、それが本当の食育だという言葉に深くうなずきました。

里芋の香りでいっぱいのコンテナ

初めて訪問した午後、作業場で従業員の方数名がコンテナに収穫した里芋の出荷作業をしていました。川越さんは10名近い従業員を雇用。野菜の出荷や漬け物など加工品の製造、地元青果の流通も請負ながら、農業として経営し続けていける自然栽培を実践中。
さてその掘り上げたばかりの里芋の入ったコンテナ。何気なく覗き込んでびっくり。里芋の香りがコンテナいっぱい漂っていました。土の匂いがしない里芋に驚きました。コンテナに漂っていた香りは、熱湯で茹でた時に香る少しだけ甘い里芋の香りそのもので、思わず口元が緩んでしまいました。

「土は無臭です」。これまで土の匂いだと思っていたのは土に蓄積されたものの匂いで、外から畑の中にもちこまれたもの(農薬、化学肥料、堆肥等、元々その畑には存在しないもの)が発する匂いなのだそうです。自然栽培に切り替えるとき、数年間牧草の種をまいて、育ったらすきこむ作業を繰り返す。そうして畑の土を浄化していく。
徐々に牧草が周囲の草の色に近い薄い緑色になり、あわせて牧草の茎や葉など全体を経過観察し、野菜が栽培できる土が出来てきたことを判断。そうして野菜を植える適期には、土も、匂いがしない土になっているのだそうです。コンテナに漂うふわっと甘い里芋の香りは、説得力がありすぎました。>

これからの世代のための農業

川越さんは教えを乞う人に「やめたほうがいい」と勧告します。川越さんの目指す自然栽培では土作りに丸三年。その間牧草以外は植えない、完全に収入がゼロの状態で、ただただ牧草の変化を観察して畑の土ができたかを判断します。「まずその間収入がないよね。だからよほどの覚悟がないと出来ない」とばっさり。それでも結果を出そうとするならば、いくらでも教える。遠慮はいらない、と。続けることが結果を出すが続けられなければ結果は出せない、その人の人生には責任が持てない。厳しいようで思い遣りのある言葉だなと思いました。
私にはどうしても聞いてみたいことがありました。それは川越さんがこの自然栽培を続けている理由とこの先の目標です。大豆畑で質問しました。川越さんの答えは意外なものでした。「なんだろうね・・・」。

私にはその答えが「次世代のためにつなぐ」ことだと思いました。違うかもしれません。ただ川越さんと話しながら、夕日にキラキラと輝き風でサワサワと波打つ大豆畑をみていると、そう感じたのです。これまでの苦労も成功したことも、次世代のために、まずは川越さん自身が実践してみせてくれているように思ったのです。農業で土をきれいにし、環境に負担をかけないで、子どもでも食べられる本来の野菜を育てる川越さん。
「またこの畑を見にきてもいいですか?友人も連れてきてもいいですか?」と尋ねると、「いいよ」。事もなげにいうとまた、大学時代の話や奥さまとの出会いの話、スポーツに熱中していた過去のこと、など尽きない話に日が暮れていきました。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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