毎朝二人で 夏の甘い筍 緑竹-鬼束 政成・敏子

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鬼束 政成(おにつか まさなり)

緑竹栽培歴15年。毎年7月初旬〜9月中旬の期間中、休まず緑竹を収穫、出荷。今年結婚52年を迎え、息のあったやりとりで周囲の人も和ませてくれる。

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【電話番号】
0985-54-3364

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毎朝二人で 夏の甘い筍 緑竹-鬼束 政成・敏子
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「まずは暑さとの戦い

朝5時。夏の空が白み始めると夫妻で畑へ。撮影は朝6時。宮崎市の気温はすでに30度近く。海に近い立地だからか、湿度を帯びた空気が全身にまとわりつきます。
事前に教えてもらった畑近くの住宅地まで行き、携帯に連絡すると、政成さんが軽トラで迎えに来てくださいました。後について車を走らせると、すぐに住宅地が終わり、そのまま山の中腹までガタガタ硬い土の道を進みました。着くとにこやかに出迎えてくれた敏子さん。

「蚊に刺されるといけないからね」、と一人に一つ真新しい蚊取り線香を手渡し。収穫前からすでに額に汗がにじみ落ちます。「今日は炊き込み御飯を用意しているからね」とニッコリ微笑むと、驚く私たちを連れて竹林の中へ。緑竹はトラックが通れる幅をあけて4〜5列に整然と並び、とても美しい光景でした。
宮崎市で緑竹栽培が始まったのは約15年前。市議やJAが中心となり緑竹部会のメンバーを募集、JAを定年退職したばかりの政成さんは、知人からの誘いで緑竹部会の立ち上げから加わりました。その年に60本の苗竹を植林、現在では約80株の緑竹を栽培しています。

毎日収穫を欠かさないこと

タケノコの生育は早い。昨日は見えていなかった芽が、翌朝にはシュッと芽を出しています。
「うちは規格外はないよ」。コツを尋ねると「毎日収穫するだけ」と笑う敏子さん。「(始めた頃は他の人と同じように)3日か2日に一回掘っていたけどくずが出てた」、そこで毎日掘っていくうちにA品ばかりになったそうです。
さらっと「毎日」とはおっしゃったものの、費用対効果を考えたら数日に一度、または本数が多い日だけでも良いはず。実際に、雨が降った後には緑竹がたくさん出ることも教わりました。その理由はお二人の優しい気持ちでした。

「うちはもう年だし、他の(農作業)もあるから(緑竹は)しなくてもいいんだけど」というと、緑竹部会のメンバーさんの名前をあげて「応援したいから(彼女たちのために部会が続くように)、続けていると」と目を細める敏子さん。
緑竹は一箱5〜6本入りの2キロ詰めで出荷、高級タケノコとして料亭や飲食店に顧客が多いようです。部会ではさらにブランド価値を高めるため、無農薬無化学肥料栽培と出荷基準を統一。土から上に5cm以内で、直径5cm以内、高さ10cm以上のみ青果で出荷。土から顔を出して日光に当たったところは緑色に変色し、苦味が出ます。規格外のものは会員がそれぞれ水煮にして、主に近場で直売。
鬼束さん夫妻が、収量が少ない日でも毎日出荷を続けることで、宮崎産の緑竹の信頼と知名度は上がります。細くても長く続けて、信頼の積み重ねることが大きな力になります。

ふかふか緑竹畑、一振りでザクッと収穫

鬼束さんの畑は、20年かけて開いた小高い山の中腹にある畑。6時半をまわる頃には日光が差し込み、竹やぶの外はキラキラ眩しく、気温も湿度もさらに上昇。山の土は灰色で変わった形状をしていました。水分が抜けて固まった粘土のように硬くて崩れず、土というより空洞のある軽石のよう。「緑竹には向いているみたい」と敏子さん。緑竹の足元はふかふかの茶色い土。そこだけ完熟の牛糞堆肥をたっぷり入れているのだそうです。掘るたびに大中小のミミズが現れ、クモやハエなどの昆虫もせわしなく動いています。

私も収穫体験させてもらいました!まず手にするのは『山ぐわ』という山仕事用の幅の狭いクワ。敏子さんが緑竹の芽の周りの土を掻き出し、根元が見えたところで政成さんが収穫するのがいつものパターン。政成さんの山ぐわは緑竹用にあつらえた特注品です。
緑竹は小ぶりなタケノコです。「大きく取ろう」と深いところを狙いすぎると硬すぎて切れません。ギリギリ柔らかいところにクワを当てるのがまず難しい。そして真っ直ぐ綺麗な断面に切るのも難しい。コツを尋ねると「クワを当てる向きと位置かな」。政成さんは見ただけで切る位置がわかるそうです。政成さんは全て一振りでザクッと掘り上げていきます。「足でも探ったら」と土の感触でもタケノコを探しました。汗が止むことはなかったけど、竹林の美しさとザクッと掘れる感触が楽しくて、しばらく山ぐわが手から離れませんでした。

甘いタケノコは、緑竹

「タケノコは春の味覚」。緑竹をいらない頃は春だけの味覚だと思っていました。そんな春のタケノコはずっしり重く、幾重にもまとった皮を剥ぎ取り、大鍋に米ぬかを入れて湯がき、水にさらし、アク抜きをします。孟宗竹(もうそうちく)、真竹、大名竹・・・、3月、4月、5月、6月と気温が上がるにつれアクの少ない品種が採れ始めます。そしてこの「緑竹」は夏が旬。夏のタケノコ緑竹は小ぶりで皮も少なくアクがほとんどありません。敏子さんも「タケノコの中で緑竹だけは米ぬかも何も入れず、水だけで下茹でする」そうです。
収穫が終わると、畑で緑竹を洗い、下部を切り落として自宅で箱詰めします。撮影後自宅へ招いていただきました。

「生でも食べられる」という話を聞いていたので、ドキドキしながら生でも頂きました。緑竹の切り口から滴り落ちる水滴、ほわっと広がる甘いタケノコの香り、今までのタケノコと違うのは一目瞭然。7mmほどの厚さで一口サイズに切って頂きました。とれたての梨のような食感、トウモロコシを生で食べるようなしっかりとした甘み。幾重にも驚きを重ねてくれた上で、さらにその味わいがしばらく喉の奥にとどまり、特にその甘さを強力に印象付けてくれました。

敏子さん特製、緑竹御膳

鬼束さんの食卓に並ぶ緑竹御膳。緑竹の刺身(酢味噌和え)、炊き込み御飯、天ぷら、煮しめ、豪華朝食を頂きました。2時半に起きて準備した、と敏子さんが席を外した際に娘さんが教えてくれました。
緑竹の下ごしらえを教わりました。根元の固い部分を切り落とし、芽先をつなげた状態で縦半分に切ってむくと剥きやすく、「ここにはアクがあるから」と上部の節になっている内側を切り取り下準備完了。緑竹歴15年のベテラン敏子さんの手にかかると、ものの数秒で終了。その後15分〜20分湯がいて、20分ほど水にさらせば下処理完了。残ったら水に浸して冷蔵庫保管。毎日水を変えれば1週間ほど持つそうです。

そのまま酢味噌で頂くだけでも美味。敏子さん特製の甘めの酢味噌と甘い緑竹は好相性。炊き込み御飯はもっちりと甘く、優しい味わいながら出汁の旨みたっぷりでお代わりを2回。鶏肉たっぷりと野菜を洗った水分だけで、特に水は加えず、2度炊くのがポイントだそうです。取材班が喜んで食べる様子をニコニコしながら見守るお二人。「いつも二人一緒、昔から仲良しですよ」。
政成さんはJA職員として、敏子さんも子育てをしながら定年まで勤めあげました。今は二人で早朝から精力的に働き、終わったら一緒に息抜きに出かけて、と何をするにも一緒のようです。二人だから毎日続けられるのかもしれませんね。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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