新富特産の蕎麦。農地と地域を守る農業を-比恵島学

producer_profile01

比恵島 学
(ひえじま まなぶ)

秋冬のハウスキュウリ栽培を主に、夏の早期米、秋冬の小麦、もち麦、蕎麦、と多角農業経営を行う担い手農家。

producer_profile02

【住所】
宮崎県児湯郡新富町新田柳瀬11552-5

【電話番号】
090-5086-0288

アーカイブ (Archive)
新富特産の蕎麦。農地と地域を守る農業を-比恵島学
  • producer_slide01
  • producer_slide02
  • producer_slide03
  • producer_slide04

蕎麦の実

そっと足を踏み入れた蕎麦畑。黒くて小さな三角形のコロコロした形の蕎麦の実。一本の木に一点だけ接して鈴のようにぶら下がっています。大丈夫だよ、といってもらっても実が落ちそうで、なかなかシャカシャカ歩けません。
しゃがんでみると、一本に1、2、3、4・・・数えるほどしか実は付いていません。「今年は10月の台風もあったから、(実が)特に少ないよ」。初冬の風に揺れながら健気に耐える蕎麦の実。蕎麦は実が少ないんですね、と驚くと「一反あたりの収量は60〜70キロかな」。米の平均反収500キロと比べると約8分の1。

比恵島さんは約30町の田んぼで水稲、小麦、蕎麦、もち麦を、4反のハウスできゅうりを栽培。あわせて東京ドーム約6個分の面積を栽培管理。他にも農作業受託の会社『柳瀬アグリパラダイス』を地区の4農家で設立するなど、地元の耕作地を守る貴重な存在。
米の裏作で秋冬に栽培する麦類ですが、小麦は種を買い肥料をあげ麦踏みも、と手間暇かかる一方、蕎麦は収穫した蕎麦の実を翌年もまき、肥料や農薬も一切不要で育つそうで、とってもエコ。比恵島さんの蕎麦栽培は今年から始まったばかり。

田んぼで蕎麦?!

新富町は海沿いの町。県天然記念物アカウミガメの産卵する富田浜から数キロ内陸に入ると高台になり、大小約200基の新田原古墳群と、台地の中央に広がる航空自衛隊新田原基地、それを囲むように茶畑や畑が広がります。稲作より前に縄文人が食べていたといわれる蕎麦。新富でもこの新田原周辺で戦前から栽培されていたようです。
ですが、蕎麦の取材で案内してもらったのはなんと田んぼ!一ツ瀬川沿いの水田地帯の一角に案内してもらいました。うっすら茜色がさした蕎麦の木はストレスのサイン、蕎麦の実が乾燥するまではもう少し。あと約1週間で収穫を迎えます。

「蕎麦は水に弱いから」、取材中繰り返された言葉。原産地は東アジアの乾燥地帯とされ、荒地でも育つたくましい蕎麦ですが、水だけには弱いそう。田んぼの裏作として育てるためには、畝立てをしたり水はけを良くする作業が欠かせません。今年の10月は台風2個が日向灘を北上。運が良かった、と比恵島さん。9月半ば〜下旬に種をまく農家が多い中、主力のハウスキュウリが忙しくなる前に、と9月2日に種をまきました。それが幸いしなんとか台風を乗り切った比恵島さんの蕎麦。まだ背丈の低い蕎麦が水に浸かり全滅した農家さんもいたようです・・・。

蕎麦が好き、自家栽培の蕎麦で年越しが夢

蕎麦の国内自給率は約25%(平成25年、農林水産省統計)。消費される蕎麦は主に中国やアメリカからの輸入品。一般的に蕎麦は反収も低く、収量も価格も不安定。数年前、米の転作奨励作物に蕎麦が追加され、新富町では補助金を出して買い取り価格を安定させ生産者支援をしています。
そういった後押しもあり、この秋、比江島さんは約2町5反の田んぼに種を播きました。といっても、大規模に農業を展開している比恵島さんの話を伺っていると、蕎麦栽培は正直全く経営インパクトを感じず、なぜ蕎麦栽培を?と不思議に思えてきます。

理由を尋ねると即答「蕎麦が好きだから」。この冬一番の冷たい風が吹き続ける中、小さいときから本当に蕎麦が好きで・・・とこの日一番の笑顔を見せてくれました。今年はまだ販売はせず家族と従業員で一緒に食べる予定だそうです。
新富の蕎麦粉100%の乾麺も好きです、など蕎麦談義中「(町内にある)春日神社では年越しに地元産の蕎麦を振る舞う」慣習があると教えてもらいました。氏子が神社に蕎麦を献上し、神社が製粉して蕎麦打ちし、参拝者に振る舞われるのだそうです。比恵島さんも自作の年越し蕎麦が今から楽しみのようです。

国産の蕎麦、宮崎わせかおり

比恵島さんの蕎麦の品種は「宮崎早生かおり」。新富で栽培されている品種はほぼこれで、名前の通り宮崎県生まれの早生品種。元々この土地で栽培されていた在来種から選抜し、秋の台風や秋の長雨の被害を受けにくいよう改良されたものです。
比恵島さんの蕎麦は今年1年目でまだ食べられなかったので、まつりしんとみに行き、新富町そば振興会(そば農家団体)の「宮崎早生かおり」蕎麦を頂きました。香りがしっかりあり、蕎麦粉100%で喉越し柔らか。食べ応えのある味わいに、少し甘めの手作りつゆがよく合う美味しいお蕎麦でした。

そば振興会は70歳以上が主で、現在約50軒。毎年、町内で開催される5つのイベントに出店し、挽きたて打ちたての手打ち蕎麦を販売しています。「(比恵島さんのように)新しい人や若い人が入ってくるのは嬉しい」と会員さん。
戦前から、新田原基地のある高台を中心に蕎麦栽培が盛んな土地で「子どもの頃は、お腹を空かせて帰るとおやつに(そば粉を練って茹でる)「蕎麦がき」を作ってくれた」と懐かしむ会長さん。「新富の人はみんな蕎麦が好きだよ」。蕎麦は新富の田舎の味なのです。

家族のために、地域のために

比恵島さんの倉庫にはピカピカの農業機械がずらり。8条植えの田植え機に大型トラクター、自動草刈機、播種機、管理機・・・。「どうしてここまで規模拡大しようと思われたんですか?」そう尋ねると、「娘が4人いるから。育てないと」と笑うと、
米の生産調整がはじまり水田を手放す農家が増え、どんどん地域の農地が集積してきて、と話してくださいました。
柳瀬地区の仲間とたちあげた農事組合法人『柳瀬アグリパラダイス』では、田んぼの代かきから植え付け、消毒など農作業の請け負いや、籾の乾燥や籾すり、精米などを行っており、工場には大きな籾すり乾燥機が幾つも並んでいます。地域の継続した営農を支える大きな柱になっています。

昨年より比恵島さんの弟夫婦も新規就農して一緒に営農し始め、従業員も常時雇用し、いずれは法人化も視野に。現在、経営の柱である秋冬のハウスキュウリも、4反から7反へと約倍増予定で、さらなる経営の安定化を図りたいと比恵島さん。
地域の期待に応える営農をしながら、今ある環境でできることやりたいことに挑戦している比恵島さん。ぜひ大好きな蕎麦の栽培も続けて蕎麦の話をして、農業の楽しみを後進にもみせてあげてほしい、そう思いました。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

PAGE TOP