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田口 正幸(たぐち まさゆき)

1983年生まれ、延岡市北方町出身。高鍋農業高校中退後、地元で大工に。その後神奈川県に移り、オーストラリアでワーキングホリデーで一年を過ごした後、22歳で宮崎にUターンし、就農。

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家族で多品種果樹栽培

田口ファミリーファームは現在町内三カ所で、金柑、いちご、梅、桃、ぶどう、柿などの栽培と加工をしている果樹農園。延岡市北方町は昭和初期から柿の植樹が始まった、県内随一の柿の産地です。お祖父さんは牛飼いや山の仕事をしながら柿を植え、田口さんのお父さんの時に果樹農家へ舵を切り、面積を拡大して柿専業農家に。田口さんも「柿に育ててもらったようなもの」と柿への強い思い入れがあります。
そんな柿農家の初夏の収入源として、平成から本格的に始まった桃の栽培。今では、6月に入ると毎年旧北方町から延岡市街地まで広く北方町産の桃が出回っています。

田口さんとは、田口さんが県SAP会議連合(宮崎県内の若手農業従事者の学修団体)代表をされていた6年ほど前に始めてお会いしました。その時既に「自分は、将来一年中収穫体験ができる観光果樹園にしたい」と夢を見るように話していました。
そして2年前のゴールデンウイーク、『道の駅北方よっちみろや』で田口さんが金柑の直売中に遭遇。お店を始めたんですね、と近況を伺うと加工品の製造も始めたとのこと。今回はあの時語っていた夢と今の農園について伺いたくて、山ほど質問を抱えて取材に伺いました。

6月〜7月はとにかく繊細な桃の季節

「桃は、触るだけで手の跡がついてしまうほど(柔らかい)。収穫は誰でもはできない」、難しい果実です、と田口さんのお父さん。現在、両親と三姉妹と田口さんの4兄弟の家族全員とアルバイトスタッフ合わせて約10〜14名で運営。剪定から摘果、袋がけ、収穫、どれも人出がいる作業。摘果は二回行い、最終的に1枝に1個だけならせます。
現在、桃は極早生の『はなよめ』から始まり『日川白鳳』、『あかつき』、『まどか』、『なつおとめ』、晩生の『玉うさぎ』『さくら』まで7種。各収穫期間は半月もなく、6月初旬から7月下旬にかけて順次出荷されます。はなよめを頂きましたが、桃の果汁を逃さないように食べるのに苦心、とってもジューシーでした。田口さんが太鼓判を押すのは、7月後半に収穫を迎える晩生の桃。

晩生の桃は、ヒヨドリやカラスなどの食害に遭いやすいため木には網をかけ、蛾の幼虫が果実に入らないよう特殊な電灯をつけるなど、対策に手間暇や施設費がかかります。柿農家としてキャリアの長いお父さんも「桃は虫もつきやすいし、味のコントロールが難しい(雨が多いと甘さが薄くなってしまう)」、と嘆きます。その中でもさらに難しい晩生の桃は、地元では他に栽培している人はいないそうです。

ここに残り、農業を生業にする覚悟を決めた日

田口さんは2005年Uターン。といっても本気で農業をやるつもりではなく、帰国したからとりあえず一回地元に拠点を置いただけ。そもそも両親の勧めで農業高校に進学したものの、中退し、一度は大工の道に進んでいます。子どもの時は、牛のお世話や農作業の手伝いをさせられていたものの、苦痛でしょうがなかった。勉強する意味が分からず、先生からも納得いく回答が得られず宿題もしなかった、そんな子どもでした。

宮崎に戻った年に残るか又出ていくか考えていた頃、関東で大きな大工の仕事の打診が。「決算書を見せてもらって、このままやっていても自分の給料が出ないことは分かってて、まずいと思ってた」。「今のやり方だと続けられない、もし俺のやり方でやらせてくれるなら本気でやる」。お父さんと膝を突き合わせて語り了承を得て、大工の話を断り、腹をくくったのが14年前でした。
それから10年ひたすら畑で汗を流し、農業を一から学びました。農業経営の中身も見直し、お父さんとも「あーしたほうがいいとかこうしたほうがいいとか」話しを重ねて、新しい作物へも挑戦。苦渋の選択で柿の木を切り、桃を育て、ぶどうも植えた。「切りたくなかったけど。(続けていくために)せめぎあいですよね」。

「経営者の仕事は、農園の未来を描くこと。」

昨年は柿園の隣にいちご園を建て、今年からいちごの収穫も始まりました。取材した6月前半も真っ赤ないちごが沢山。「5月までと思っていたけど、6月末まで出来るかも」。数年様子を見て収穫体験を始める予定です。
「ここ4年くらいは経営者としてやるべきことを考えるようになった」という田口さん。耳につけた白いイヤホンでは移動中や作業中に経営の勉強のためラジオを聴いています。いちご園は「あったらいいな」という経営のカンで始めました。

農業経営にかける真剣な思いを伺いました。家族やスタッフにも繰り返し言うほど大事にしているのは「新しいこと、これをやったほうがいいと思ったらまずやってみること」。やってみてうちに合うかの判断をしよう、と。「とりあえず、やる」。
「現場の仕事は現実(今)を守る仕事、経営者の仕事は未来を作ること」と断言。だから普段の農作業でも主に作業する人が現場を一番わかっているから「これだけは必ず大事に」と決め事だけ伝えて、あとは効率よく動いてください、と任せて、結果がでないときは一緒に考える。「日常を守ってくれているのは現場で働いてくれている人たち。数字のことお金のことは自分が責任を持つ」。

飲食店併設の新店舗計画、延岡市北方町フルーツパーク構想

『道の駅北方よっちみろや』併設の直売店では、旬の果実、ソフトクリームやパフェやクレープなどスイーツやジャムなどの加工品を販売。特に自社園の果実をたっぷり使ったソフトクリームは、果実感満載の食べ応えで人気です。直売所を運営するのは田口さんのお姉さん。「旬のフルーツのソフトクリームやトッピングが人気」だそうです。平日に伺いましたがなかなか客足が途切れません。私は桃のソフトクリームをチョイス。着色料や香料不使用で重量の55%が桃という桃たっぷりソフトクリームは、淡い桃の甘い香りと味わいがしっかり残っていて、桃を食べるようにさらっといただきました。

さらに、実は田口さんは飲食店併設の直売所に着手中。いちご園と柿園のそばに2021年〜2022年頃の完成予定です。「最初はうちが儲かることを、と考えていたけどすぐに行き詰まった。(あえてここにお店を作るというのは)経営としては難しい選択だと分かっているが、人が残り、土地を守るためにも、地域に産業を作りたい。この地域に育ててもらったから。地域の他の観光農園の案内もできたらいい」。とても語り尽くせない思いが目に見える形になる日も近い。
田口さんの経営哲学を伺った後、いわゆるコスパが悪そうな晩生の桃を栽培している理由を尋ねると、「おいしいから」と即答。「食べたいもん(笑)俺が喜ぶってことは大概の人は喜ぶよね」。それが経営のカンなのかもしれませんね。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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