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佐伯 章男・佐伯 博子
(さえき あきお・さえき ひろこ)
やおやファミリーは農泊の屋号。ほうれん草・お米・しょうが 農家。博子さんは元看護師で、章男さんが地元JAを早期退職後夫婦二人で就農。ともに五ヶ瀬町出身。二人とも肌つやが綺麗。博子さんの色白できめ細やかなお肌は、まるで雪国に住む人のよう。章男さんは「五ヶ瀬夕日の里の農村民宿」農泊部会長を2006年から努める。

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日本最南端のスキー場がある町で

五ヶ瀬町は、宮崎県内ではもちろん九州でも標高が高いところにあります。冬になると日本最南端のスキー場、五ヶ瀬ハイランドスキー場が営業します。夏でも涼しい気候で、佐伯さんのお宅にはエアコンもありません。8月4日、佐伯さんに会いに五ヶ瀬町に行きました。天気は雨、気温は22℃。まるで秋のような肌寒さで、暑くなったら脱ごうと羽織っていた長袖シャツは終始着たままお話を伺いました。
また、五ヶ瀬町鞍岡地区にある祇園山は、九州で最も古い四億三千年万年前の地層であることから、五ヶ瀬町は九州島発祥の地とも呼ばれています。町内には山肌に石灰岩の地層が見えるところも多く、その石灰岩で濾過されたミネラルたっぷりの良質な水に恵まれた土地です。佐伯さんの田んぼは山あいにあり、端にはいくつも大きな岩が転がっています。田んぼの中にも岩が多く、深く耕せないという事情もあるそうです。

段々畑で除草剤に頼らない米づくり段々畑で除草剤に頼らない米づくり

今の農業を始めたきっかけを聞いたお話になったときのこと。「子どもたちや孫たちに安全なお米や野菜を食べさせたいから」と章男さんがいうと、隣で博子さんも深くうなずきました。就農と同時に始めた稲作は今でも続けられていて、近くに住む長男一家や遠くに住む長女一家にも毎年届けられています。
田んぼは山あいの、あぜ道を50mほど行ったところにある段々畑。田んぼに向かうあぜ道は、軽トラックがギリギリ通れる幅で、低木や笹や草が生い茂り、走るトラックの頭上を枯れ枝や笹がかすめていきます。
田んぼは全部で7枚。一枚一枚は小さく形もバラバラで、雑草対策が一番の課題。合鴨から始め、鯉を使ったり、ジャンボタニシを使ったり、タイヤチェーンを使ったり(田んぼの中を引いてまわる)、色々挑戦されています。

これまで除草剤は一度も使ったことがありません。田んぼは植え付けの準備から重労働。佐伯さんは、貝化石・EM菌ボカシ・焼酎かすに、のこくずなどを入れて発酵させた堆肥、それに糖蜜とEM菌の活性液をまぜて撒いて、土づくりをされているそうです。田んぼの一部には、手づくり味噌の原料になる大豆も栽培中。
8月22日の撮影の日、田んぼでは稲穂が垂れ始めていました。初めて知ったのが、この時期のお米はそのまま食べても甘いということ。イノシシもこの時期田んぼによく来るそうです。一粒を手に取りました。まだ青い籾の外側をそっと外すと、ミルクのような乳白色のお米のようなものが頭を出しました。内側の籾がついたまま食べてみると、本当に甘い。とろっとした食感の優しい甘さでした。

里山の景観を守る肥料づくり

現在二人が取り組んでいるのが「植物性の堆肥」を使用した畑作です。「いい堆肥」を探し求めて回った結果出会ったのが、今実践されている植物由来の肥料でした。「化学肥料は植物が吸収しすぎる。葉っぱも黒々しくなって、味に影響する。だから化学肥料を使わない」と。「植物由来の肥料は動物性の堆肥と比べても安心して使うことが出来る」と話してくださいました。
佐伯さんお手製の肥料は「枯れ草葉を発酵させた堆肥」と「青草液肥」。 私も枯れ草集めをお手伝いさせてもらいました。田んぼのあぜ道や斜面に生えている竹笹や茅・葛の葉を数日前に刈っておき乾燥したものを、茅の紐でまとめて運びました。竹笹や草がゴワゴワしているのに手間取って、なかなか束ねられないでいる間に、佐伯さんはあっという間に茅紐をつくり大きな束をまとめて運んでいかれました。佐伯さんは70歳ですが、農作業をしている姿は20歳は若く見えます。とにかく早い。持ち帰ったこれらはカッターで細かく切りました。後日米ぬかと糖蜜を混ぜて発酵を促した後、畑に撒くということです。「青草液肥」は畑の脇に自生するオオバコ、スギナなどの野草を茅などの雑草と一緒にEM菌を入れて発酵させたもので、薄めて畑にまきます。

佐伯さんの畑作は「里山の環境保持」につながることに気づきました。農業は環境破壊につながると言われることもありますが、そこに生える笹や草を刈って、肥料にして畑に蒔いて野菜を育てることは、自然に負荷をかけず、積極的に里山の景観を守ることにもなります。自然の循環を利用した、自然と共に育つ農業がこれからも広まってほしいと思います。

木と水とほうれん草

農家民泊を始めるにあわせて、今のところに新居を立て直したのが数年前。玄関から客間や居間、廊下の壁に至るまでふんだんに木が使われており、木の温もりが溢れる素敵なお宅です。この木は佐伯さん所有の山から切り出してきた木だそうです。リビングにあるテーブルも、山から切り出した樹齢100年ほどのケヤキを使った立派なものでした。山々に囲まれた五ヶ瀬町は森が身近な存在です。五ヶ瀬の山の恵みで作られた家は、とても居心地のよい家でした。
また、水も貴重な五ヶ瀬の山の恵みです。佐伯さんの畑で使われる水は、大きなケヤキの木が抱えこむ岩の表面に染み出てきた湧き水です。その水をタンクに集め、畑に運んでほうれん草やショウガにも散水しています。 佐伯さんのほうれん草は、淡い緑色をしています。葉は厚みがあり柔らかい。夏のほうれん草は栽培が難しく、夕立の後などに気温があがると蒸れて溶けてしまうこともあるそうですが、佐伯さんのほうれん草は元気でした。直売所に出すとすぐ売り切れてしまうそうです。他にも柿、ブルーベリー、ビルベリー、アスパラガス、ナス、トマト、パセリなど旬の野菜や果物を食べられるように色々栽培されています。農泊の夕飯で出されたり、近所に住む孫にあげたり、食べた人の喜ぶ顔を見るために栽培されています。

農泊体験

撮影の後、佐伯さんは夜ご飯をスタッフ全員にふるまってくださいました。炊きたてのお米は、ふわりと甘い香りがしました。一粒一粒がふっくらとしていて、お茶碗に盛るとツヤツヤ光りました。佐伯さんの田んぼを思い出しながら食べるご飯は幸せそのもので、数ヶ月ぶりにご飯をお代わりしました。
他にも、山菜の煮しめや地鶏の煮込み料理をはじめ、手間ひまかけた数々のお料理に感激した夜ご飯でした。特にタケノコとゼンマイの山菜の煮しめは食感もよく絶品。春に山菜を取りにいき、茹でてアク抜きをして、切って、干して保管したものを使います。料理をする際は一晩水に漬けるところからはじめ、圧力鍋で煮て、味付けをして冷まし、食べる際に温め直す。

他のものも一つ一つ手間を惜しまず、丁寧に手をかけて作られた料理ばかり。こんなにお腹も心もいっぱいになった食事は本当に久しぶりでした。本当の贅沢とはこういうことなんだろうなぁと思いました。 その晩は佐伯さん宅で農泊。翌朝6時には360度展望の山 枡形山に連れていってもらい、人生初の雲海を拝むことができました。その後朝ご飯を頂きに家に戻り作業のお手伝いをし、お昼に佐伯さん宅を出発しました。お話をしていて、尽きることのない笑顔と心からの思い遣りがあふれるお二人の人柄にすっかりファンになっていました。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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