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黒岩正志(くろいわただし)
高鍋町出身。尾鈴山の山中で養鶏を営む。山の中の鶏舎そばの管理棟に住み込みながら、息子さんと従業員と主に3人で6つの鶏舎を管理。注文を受けてから一羽一羽手作業で鶏をさばいて販売する完全受注生産制で鶏肉や卵を販売。料理人からの引き合いが強く、黒岩さんの鶏に惚れ込み、店名にその名を冠したお店もあるほど。

※『黒岩土鶏』が食べられるお店
酒瑠璃(西都市)、晩屋いも蔵(高鍋町)、料理渋玄(宮崎市)、黒岩さん(福岡市)、笑顔やハナタレ(行橋市)

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山の中の鶏舎

黒岩さんは元々大阪で土木会社を経営されていました。宮崎にUターンして実家の養鶏を継いだ後、平成7年に現在の山を購入。重機を操作し自ら開墾して鶏舎を建て、現在ではヒヨコから成鳥まで成長段階の異なる鶏舎が6舎。また、管理棟や加工場も全部同じ山の中。水は涌水を使用。
到着して早々に、黒岩さんの運転する四駆にのせてもらい鶏舎を見せてもらうことに。路肩に大きな岩もむき出しの砂利道はくぼみも多く、縦横に揺さぶられたり木の枝葉に触られたりしながら、車は山道を登りました。

6つの鶏舎を回るのにゆうに30分はかかっただろうか、途中に牧場の中で自然繁殖している馬の痕跡や、牧場にすみついている鹿を探しながら、いつの間にか冒険気分に。そうして辿り着いた山頂からみた日向灘は絶景でした。標高400m。手つかずの自然が残る尾鈴山は、爽やかに吹く優しい風とサワサワと木々が揺れるBGMで最高のロケーション。
「ここから見る星空は絶景よ」と黒岩さん。お客さんからのリクエストで、ここでバーベンキューもするそうです。「猪や野生動物もここは通る。野生動物が山に帰る道は一つ。その道を外したら町に出没してしまって駆除されたり、山に帰れなくなったりする。ほら、あそこに見えるのも獣道」。黒岩さんの自然をみる目はすごい。

土は天然の抗生物質

黒岩牧場では「地鶏」ではなく「土鶏」と呼びます。
「鶏たちは具合が悪くなると、土を食べるんですよ。そうして自分で体調を整えるんです」。鶏舎は中央に円形のえさ箱と水飲み場があって、自由についばめるスタイル。えさは黒岩さんオーダーメイドの飼料で、国産トウモロコシや穀類が主で、抗生物質など化学合成物質を一切配合されていないものです。また黒岩さんは、えさ以外にも、鶏たちは木々の下の雑草をついばんだりして、勝手に(!)体調を整えるのだと教えてくれました。「土には天然の抗生物質が含まれている」と。通常ブロイラーに与えられる抗生物質も、実は土に由来する成分が主です。黒岩流養鶏で大事なのはこの、鶏が自分で自分の体調にあわせて土をついばめる状態に環境を整えてあげること、です。余計なことは一切しない。

例えば、ブロイラーなどの大量飼育では、ストレスが溜まった鶏同士が争わないようにくちばしを切ってしまうこともありますが、それはしません。鶏たちは毛つやもよく、鮮やかな赤いとさかに鋭い目つきで、生きる力がみなぎっているのが、その目から全身から伝わってきました。
黒岩さんは鶏の群れを見ながら一羽一羽も見ていました。「ちょっと体調が悪いな」鶏をみると瞬時にその状態がわかり、つぶやく。特に鶏の喉に寄生する虫は、鶏にとって致命傷になりますが、そういう鶏だけは後で寄生虫に聞く栄養剤を口から含ませて回復を試みます。黒岩牧場には6千羽の鶏がいます。

食育用のサファリパーク

半開きの状態の鶏舎のドア。鶏はいつでも自由に出入りできます。鶏舎の中でえさをついばむもの、外で土をついばむもの、木陰で休むもの、草や竹の中に入っていくもの。過ごし方は鶏それぞれ。ポカポカ陽気のせいか、全体的にのんびりしているように見えました。
「子どもたちが気軽に遊びに来れるようなところをつくる」のが黒岩さんの目標。だから山を買ってここに鶏舎を建てました。「子どもたちにもこういった鶏や自然の本来の姿を感じてもらいたい」。山には多くの動物も生きています。実家の養鶏を継いだ頃から、鶏本来の良いものを届けたいという想いは強く、山を買う前は卵の販売が主で、卵の配達で毎週九州を走り回っていた頃もありました。

「自分の手で食べる人にしっかり届けたかったから。なるべく中間販売者を通さないで一番いい状態で販売したい。」山の中の鶏舎をつなぐ道も黒岩さんが重機を操作し開拓しました。途中に大きい穴があいていたり、岩が崩れていたりします。「事故をおこさなければ20分くらいで回りきりますよ」と落ち着いた声で笑う黒岩さん。自分の目標のための道を自分で切り開いてきた姿が形になりつながっている。
いずれは黒岩流養鶏を標準化して、誰でも簡単に養鶏が出来るように教えて、年金暮らしの高齢者のお小遣い稼ぎにもなるような、そんな養鶏スタイルを構想しています。もちろん、薬や化学抗生物質、配合飼料は使わないで、なるべく自然のままにやる養鶏スタイル。当たり前のように、そんなふうに育った鶏肉が広がって行くことを考えたら嬉しくなりました。

鶏の本能を引き出す養鶏

「もうかるための養鶏は、鶏をだめにする」。俳優のように整った笑みをみせる、黒岩さんの眉間にしわが寄ります。今の一般的な養鶏では鶏本来の力が発揮できないことを教えてくれました。「主体性をどっちが持つか、なんですよ。鶏がもつ獣本来の本能とか自然治癒力とかが目覚めるように環境を整えてあげれば、人間は見守ってやるだけでいい。」反対に人間の都合で早く出荷したい、早く太らせたい、と本来の鶏とは違う成長をさせると、抗生物質や薬をあげないと生き残れないようになってしまう、と悲しそうな顔を見せます。

黒岩土鶏の飼育日数は120日以上で、長い時には180日に及ぶ事もあります。ブロイラーは50日。地鶏の規格として定められている期間でも80日以上だから、2〜3倍の期間がかかります。飼育日数が長いとそれだけ餌などのコストもかさみます。
「この鶏たちもあと1〜2週間で出荷できるようになりますよ」。黒岩土鶏は完全受注生産で、注文を受けてから鶏を捌きます。出荷のタイミングをどこで判断するか尋ねると、「見た目が変わります。毛づやがパッとよくなり、骨格がどしっとしてきますよ」と即答。前を見据え、こちらの動きを見ながら出方をうかがっている鶏たち。今でも凛として十分美しいと思うのですが、毎日見ている黒岩さんだからこそわかる変化があるようです。

ハートのピンクのきれいな鶏

黒岩地鶏の育種はフランス系の赤鶏『ラベルルージュ』。黒岩さんが鶏本来の美味しさを追求していて理想の鶏を探し歩き、出逢ったのがこのラベルルージュ。鶏も鳥です。「鳥にはもも肉はほとんどない。飛ぶための翼があり、胸筋を使うので、胸肉が発達する」。だからおいしい鶏は胸肉が一番おいしいですよ、と炭火焼にして振る舞ってくれました。
地鶏のような硬さはなく、適度な弾力があって身はふっくらジューシー。適度に噛めて柔らかい。身が締まっていて肉質は均一で、歯につまるようなことはなく、噛むとじわっと肉汁が溢れてきました。
焼く前の胸肉も見せてもらいましたが、美しいハート形と、柔らかなピンク色の胸身に思わずため息がもれました。「市販の胸肉で白っぽい色のものが多いのは、子どものブロイラーだからよ(生育日数が短いから)」。素手でおろしニンニクとお肉を混ぜ合わせると、白い脂は石けんがなくても簡単に落ちました。保湿液をぬったように手がしっとり!

胸肉は揚げても固くなく、ジューシーで柔らかいのでチキン南蛮にもおすすめです。私も西都市の朱瑠璃さんで頂きましたが、黒岩土鶏のチキン南蛮を食べたら、もう他のところでは食べられないな、と思いました。
「飲食店をコントロールできるのは生産者。儲かってもらおうと思ったら美味しい肉を提供すればいい」。これからの生産者は食べ方や料理方法まで説明できないと、と言ってどこにいっても自ら包丁を握り、火を使い、料理する黒岩さん。卸し先は原則一都市に一店舗だけで、料理人との交流や情報交換を大事にします。人にも鶏にも、一人を一羽を大切にする姿勢は変わりません。

黒岩土鶏が食べられるお店 酒瑠璃
  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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