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谷口 寛俊(たにぐち ひろとし)

1954年生まれ。大学卒業後、青果流通や実家のスーパー経営などを経て、実家を継いで就農。
2002年宮崎伝統野菜『佐土原ナス』復活に成功、2006年に生産者グループ『百姓隊』を法人組織化。
生鮮野菜の販売、加工品の企画・製造・販売まで手がける。

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  • 【住所】
    宮崎県宮崎市大塚町権現昔796−1
  • 【電話】
    0985-64-8258
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百姓の集合体『百姓隊』

市街地から橋を渡って生目古墳群の近くまでいくと、緑豊かな平地に田園風景が広がります。『百姓隊』は2006年に地元農家13人で立ち上げた生産者グループで、消費者向けに野菜の直売や、市内外のスーパーに野菜の卸から始めました。現在は、百姓隊で育てた野菜を使った『食べる野菜ドレッシング』(ニンジン、玉ねぎ、青じそ、バジル)シリーズも開発するなど、地域に根ざした事業を展開しています。
また百姓隊では、谷口さんをはじめ数軒で取り組む伝統野菜の栽培が注目されています。現在は、谷口さんは伝統野菜の栽培に特化。

百姓隊のウェブサイトを開くとそこには色とりどりの野菜に混じり、縞模様の茶色いつる首かぼちゃや、葉裏が紫色の金時草(きんじそう)、淡い紫色の佐土原茄子、鰹節のような味わいのかつお菜など、スーパーでは見慣れない名前の野菜が並んでいます。
「食べ方を聞かれると、味噌汁や煮物などいつもの料理をお勧めします。“野菜を変えただけで美味しさが格段に違う、味が濃い”とお客様から喜ばれています」と営業担当の長男、勇気さん。今年の夏からは新宿伊勢丹や日本橋三越の野菜コーナーでも、伝統野菜の販売を開始しました。

日本全国の『伝統野菜』

谷口さんの畑には日本全国の伝統野菜が大集合。葉をどっしり横に広げた桜島大根に、茎が紫や緑の糸巻き大根など、同じ大根でも根はもちろん、葉の様子にもそれぞれ個性があります。畑に来る人は「この大根の名前は?」と漏れなく質問してしまうそうで、畝ごとに札をたて、名前が書かれています。
きっかけは百姓隊の農家へ集荷に行った時に見た、白い茄子。それは薩摩白茄子という旧薩摩藩に伝わる伝統野菜でした。その後宮崎伝統野菜の佐土原茄子が見つかった際に、その子孫と言われる肥後の赤茄子が熊本県をあげて保護されている様子を見て、「宮崎でもやらないといけない」と使命感を感じ復活を決意。仲間とともに佐土原茄子の栽培に成功しました。現在では、年間を通して40〜50種類の伝統野菜を栽培しています。

伝統野菜とは、日本各地に残る、代々その土地で栽培され続けてきた野菜を指します。自家採種し種をつないでいく中で、その土地の気候風土にあわせた姿へ確立したものです。「味がいいのが多い」そうです。例えば、宮崎伝統野菜の糸巻き大根は、「(一般的な青首大根に比べて)、ずっしりと重く、甘くて、味もしっかりしている」と。
伝統野菜は成育に差があり、手間もかかるという理由から、大量生産が求められるようになった戦後、急激にその姿は影を潜めました。今、その伝統野菜が再び注目されてきていると、谷口さんは話ります。地方の郷土料理に直結する野菜も多く、東京のデパートでは「懐かしい」と出身地の伝統野菜を購入していく地方出身者も多いそうです。

種の話

畑を見渡すと、黄色く色づいた白茄子や茶色くなった丸オクラの実など、枯れた野菜も点在していました。オクラはバナナのように実をつけ、そのままおいておくと中の種が成熟し、実も乾燥してきます。茄子も実が収穫適期を迎えてから数週間ほどそのままにしておき、乾燥したら種を取って瓶に入れて保管し、来年の種になります。
大根やカブなどトウ立ちする野菜は、花芽の後に残ったさやを開けて数ミリの小さな種を集め、オクラやナスなど地上に実がなる夏野菜は、熟して枯れていったものを随時回収して取り出しているそうです。5年ほど前からは、秋と春に伝統野菜の種取り体験会も開催しています。

「子どもも大人も畑に入るところから喜び、野菜がなっているところをみてまた喜んでいます」と、市街地に近い立地を生かして、一般の消費者向けの体験活動にも積極的です。
現在市販されている野菜や種子は、F1種・1代交配種が主。甘い野菜や一律に美しい縞模様の外観など、味や形や耐病性など意図した性質を持つ野菜を、性質が異なる親同士を掛け合わせることで人為的に作り出された品種で、同じ性質を持つ子孫(種)を残すことはできません。谷口さんの「(翌年も)同じものができるとホッとする」という言葉に、種をつなぐ意味を実感しました。

本物の野菜を知ってもらいたい

谷口さんは「野菜本来の姿を知ってほしい」という思いも込めて、伝統野菜の栽培に取り組みます。
有機野菜や無農薬野菜など、消費者が理想の野菜を求める時に参考にする情報は断片的なものが多く、野菜(の良し悪し)を判断する情報が少なすぎると嘆きます。「伝統野菜を知ってもらうことが本当の野菜の姿を知り、野菜を選ぶ判断材料になれば」と思いを込めます。「伝統野菜は旬の時期にしか育たない。旬の野菜は栽培に余計な手を加えなくても美味しいし、栄養価も高いので、それを食べて欲しい」と言葉に力が入ります。

また、「伝統野菜にはストーリーがある」と語り、そのものの良さを伝えるためにウェブはもちろん、動画投稿サイトを活用した伝統野菜の情報発信もはじめました。 「旬の野菜と季節外れの野菜で比べると、栄養価に2倍の開きがあることもある。たくさん食べることより、栄養価が高い野菜を食べて欲しい。また家庭菜園をしている人は是非育てて欲しい」と、伝統野菜の種を知人や畑の見学に来た人にも分けながら、広めています。

栄養価の高い野菜を

谷口さんはこれまで、就農して百姓隊を結成し、インターネットで野菜の直売を始め、伝統野菜の栽培に取り組み、ドレッシングを作り、東京のデパートで野菜を販売し・・・。これまで「何事もやってみらんなわからん」と、固定概念にとらわれないやり方で自分の農業を模索してきました。
「青果に携わって40年になるが、生産、流通、販売、いろいろな仕事を経験してきた。後になって思うのは、一つも無駄なことはないということ。その時その時で一生懸命に取り組んでいくこと」と、目の前の課題に一生懸命取り組むことの大切さを実証してきました。

また、「宮崎から日本の農業を変えたい」と、次世代の農業担い手にも目を向けています。そのためにも成功事例を作りたいと一つ一つ成果を出してきました。
「そもそも、人間は栄養をとるために野菜や食品を食べます」。今後の目標は栄養価の高い野菜作りだという谷口さん。野菜や食の大切さを伝えたい、農業の現状を変えたい、前例がないことにも挑戦したい・・・様々な思いを込めて、谷口さんらしい新しい切り口で発信し続けていきます。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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