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飯田 佳一郎
(いいだ けいいちろう)

日南市富土。富土漁港の伊勢海老漁師11軒のまとめ役。富土漁港独自の共同操業をリードする。

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【住所】
富土漁港
【ホテルドライブイン弥太郎(〒887-0102 宮崎県日南市富土1694−1)前】

【電話番号】
090-9072-0958
(注文担当者携帯)
*不通の場合は090-4515-9074

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夜明け前の喧騒

待ち合わせは5時半。ヘッドライトを上げ下げしながら海岸沿いの国道220号線をひたすら下り、日南富土トンネル手前の交番で旧道方面に左折。日向灘にせり出す山を迂回してすぐ、やっと着いたと安堵していると、お祭りのような賑わいと船団が目に飛び込んできました。橙色の明かりが照らし、エンジンのかかった船、せわしなく行き交う人々、呼び合う声。港の端っこにそっと車を停めました。
飯田さんは網にかかった伊勢海老を外し終わり、仲間と船に向かい立ち、網を手繰り回収する作業中。他の船も同様で、その脇を数台の一輪車が走り、網を運び、小屋の中に吊るしていきます。中では女性や年配の方が中心になり網に刺さった魚や貝を外しています。

朝6時。朝焼けの空を見上げると、いつの間にか船のエンジン音が消えていたことに気づきました。立ち話をする人、持ち帰る魚をさばく人、帰路につく人、それぞれの時間が動き出します。飯田さんも自らの船「翔洋丸」の甲板を磨いています。今年は9月11日から伊勢海老の水揚げが始まった富土漁港。11軒合同で行う伊勢海老漁は、満月前後の休漁期を挟みつつ4月15日まで続きます。

漁港で朝食を

朝7時、伊勢海老漁がひと段落すると朝食タイム。漁港の小屋には炊事場もあり、家庭ごとに作ります。ご飯と魚のあら汁と漬物が定番のようで、小屋から押し寄せる味噌汁の香りに、振り向かずにはいられません。
「朝ごはんを食べていかんね」、と嬉しいお申し出をありがたく受けて、飯田さんの奥さんが作って下さったお味噌汁。伊勢海老が丸ごと1匹入っているのに目を丸くしていると、「どうですか?」「味はどうね?」「美味しいですか?」通りがかりの男女が次々に笑いかけてくれました。

「取材が入る時なんかは(事前にみんなに共有して)、伊勢海老をとっておくんですよ」。共同漁の富土漁港。漁港全体の水揚げ分からいただいた貴重な伊勢海老でした。
伊勢海老の身はぷりっとぎゅっと詰まっています、味噌も初めて食べましたが、苦味はほとんどなくコクがあって美味しい、甘い、他にはない味わい。海老の足からはうまく身がとれないことも多いのですが、残すのがもったいなくてついつい手を伸ばしてしまいました。しかも手を伸ばせば海に手が届く港の食卓。至福の時間でした。時刻は7時半、遠くの国道を走る車の数が増えてきました。

毎日破れる網の修繕にも職人技

朝食が終わると破れた網の修繕作業に取り掛かります。富土漁港では、前日の夕方に沖合の浅瀬の岩場に網を仕掛けるますが、その岩場が漁師さん泣かせ。「4〜5日くらい(海の)時化が続いた日なんかは(網は粉々に破れて)跡形もなくなってしまう」ほどで、毎日どこかしらが破れるのが常。飯田さんをはじめどの家でも1日の大半を網の修繕作業に費やします。
機織りをするようにトントントン。綺麗にダイヤ型の網目を作り出す飯田さん。雑談しながらも、目にも止まらぬ早さで修理は進みます。

「あの山の上に関所があるんだよ」「昔は山で遊んでいてアケビなんかががおやつだった」。「海沿いのこの道が昔はなかったから、山道を通って鵜戸神宮なんかへも行った」。今は山に入ることはほとんどないけど、と隣に座る漁師さんも一緒に思い出話。
学校卒業後、日南市油津港で船舶修理の仕事に就いた飯田さん。漁師になるつもりはなかったけど、いつの間にか家を継いで漁師になることになったそう。漁師になってよかったことは何ですか?ありふれた質問に少し考えると「一年を通して同じ仕事があまりないことかな」。「あと、新鮮な魚が食べられること」。

富土漁港は漁師の伊勢海老直売所

富土漁港は近海で取れるイセエビやウニなどの高級魚介類をはじめ、日南市が日本一のカツオの水揚げ漁港の一つ。「あの大きな竿が立っている船はカツオ漁の船よ」振り向くと船の全長よりも大きな竿が。
飯田さんも、伊勢海老の漁期が終わると鹿児島のトカラ列島までキハダマグロやカツオを獲りにいきます。一人船上で寝泊まりしながら漁をすること(実際にはほとんど眠れないそうですが)、危険な目にもあったこと、口数の多くない飯田さんから驚くような話が次々飛び出してきます。海しか見えない船の上で一人魚群を追う飯田さんの姿を想像して、命がけの漁師の仕事の凄さを実感、魚を見る目が変わりました。

9時頃、港に一人の男性客。「伊勢海老が買えるのはこちらですか?」「昨日テレビで、ここで買えるって見て」。富土漁港は知る人ぞ知る伊勢海老の漁師直売スポット。旅館や飲食店はもちろん一般客でも直接購入できます。私がSNSでアップした一万円の伊勢海老8匹の動画にも問い合わせが続き、その反響に注目度の高さを実感しました。量り売りなので大きさや個体数も選べます、ぜひ足を運んでお話しして買ってください。伊勢海老を見る目が変わるかもしれませんよ。

食べる人のために。買い支えていきたい漁港直売

浅瀬の岩場にすむ伊勢海老は臆病で夜行性。新月の頃や、少し波がたって危ないくらいの方が沢山網にかかるそうです。そして漁港ごとに漁場が決まっていて、網を仕掛ける場所が何より重要。11軒共同での漁と港での直売を始めて約20年。きっかけは年々激しくなる競争でした。
飯田さんのお祖父さんも伊勢海老漁師で、前日に網を仕掛けておく漁法は変わらないそうです。ただ、「みんないいところが分かってるとよ」。そのため、我先にと船を猛スピードで走らせたり、網と網がからまって破れたり、海が荒れた日に漁にでたり、女性が船に乗ることも増えたり・・・「まぁ、嫁さんやらを船にのせんように、よ」。

その後話し合いを重ね、現在の富土漁港独自の産地直売システムを確立。現在、船や備品はそれぞれのものを使い水揚げは11等分。数名の立会いで1日の水揚げを計量、記帳。伊勢海老は生け簀にしまい、買い物客がくるとその日の当番が対応。競争をなくしたことで「考えながらとるようになった」。
シェアすることで資源を守り、労働環境を守り、利益も守る(経費削減にもつなげる)、考えに強く共感しました。身近でとれる季節の野菜や魚を食べるのが体にも良く、その供給が続くことは何より重要です。「伊勢海老を買い続けたい」そう思う方と富土の漁師さんがどんどん繋がることを願っています。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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